「19世紀」でわかる世界史講義
本屋さんで目について少し立ち読みしてみたところ、読みやすく面白かったのですぐに購入しました。
本書は、一般的に浸透している「世界史」という概念自体を批判し、「世界史」という概念で見えてこないものを見ようとしています。
著者はマルクス研究者であり、神奈川大学の教授です。本書は、大学の市民講座、エクステンションで行われた講義をまとめたものです。
世界史とは、西欧中心の歴史観のこと
「世界史」とは、19世紀の資本主義が生み出した西欧中心の歴史観であると著者は述べています。
19世紀は「西欧こそ人類史の最終点にあって、他の国々はヨーロッパの歴史を追随するだけだ」という価値観が広まった時代です。
最も発展したのがイギリスであれば、他の国はその下に位置する。そのようにして一直線上に諸国家が並ぶという考え方を「雁行理論」といいます。
16世紀の大航海時代のことを英語でdiscovery(発見)と言います。しかし、日本ではこの言葉は使えません。なぜなら、日本人は西欧に「発見される」側だからです。
西欧は世界の中心であり、支配的な民族であるということを主張したかった。西欧こそ人類史の最終点にあって、他の国々はヨーロッパの歴史を追随するだけだという考えが広まったのが19世紀でした。
そして19世紀以降もずっと西欧中心の歴史観は続いていて、後進国のアジア・アフリカを先導し、世界史に誘うという思想(イデオロギー)が信じられてきました。
西欧の世界史の観念からすると、資本主義が発展していなければ世界史ではないということになります。なぜなら世界を結びつけるのが経済だからで、貿易を通じて世界は動いていると考えるからです。
イギリスの地政学者ハルフォード・マッキンダーは「われわれの世界には、海と陸地がある。そのどちらを支配するかで世界の位置づけが決まる。この世界を支配するものはランド(陸地)を支配するものである。ランドの中心はどこにあるか。それはハートランドである」というハートランド理論を唱えました。
このハートランド理論は、イマニュエル・ウォーラーステインの「世界システム論」として形を変えて展開していきました。
国民国家とは
「世界史」とは、19世紀の資本主義が生み出した西欧中心の歴史観であり、まずその歴史観が生まれた原因を、本書では国民国家の成立の中に見ています。
16世紀までは、国民国家というものは存在しませんでした。スペインではトマス・デ・トルケマダが大審問(異端審問)によってユダヤ教徒をキリスト教徒に改宗させました。国民国家の祖型は宗教国家でした。
国民(民衆)が国家を構成するものとして出てくるのは、17世紀のジャン・ロック以降です。
国民国家は何かというと、言語、民族、宗教を共通にする集団だということです。そうした国家がフランスやイギリスから生まれ、それが世界に広がりはじめます。19世紀は国民国家が広がっていった時代だとも考えられます。
19世紀に「世界史」という概念が生み出された
本書はおおきく2つの章に分かれており、第一部では19世紀以前の西欧が世界に君臨するようになる過程を述べ、第二部は西欧が世界に君臨し、世界を従属させていく過程について語ります。
本書のテーマがなぜ19世紀なのかというと、19世紀に「世界史」という概念が初めて西欧で生み出されたからです。
「世界史」という言葉は、世界の歴史という漠然たる意味ではなく、世界の歴史は西欧の歴史を追わねばならないという西欧的価値観を体現しています。
世界史を実現した西欧史がいつから始まったか、それはフランス革命からだと著者は述べます。
フランスで生まれた人権宣言、そこに書かれている自由、平等、友愛という言葉は、西洋がつくり上げた最も重要な理念として、その後ヨーロッパ全体を変革していきます。
西欧はたんに高度な技術を持っているというだけではなく、人権や民主主義という高邁なシステム、音楽や芸術といった豊潤な文化を持っており、それは世界の未来を象徴するものである。すべての人類がヨーロッパを模倣すべきというミッション(使命)を抱き、西欧が世界を切り開いたのが19世紀だったのです。haoden-cat.hatenablog.com