生きのびるための「失敗」入門
今週のお題「最近おもしろかった本」ということで、雨宮 処凛『生きのびるための「失敗」入門』をご紹介いたします。
「子どもの頃の苦労話」や「幼いころにいじめられてた」という話を、「だから今の自分がある」「だから今の成功がある」という美談にするのではなく、ただの大人の失敗談として子どもたちに聞かせることは非常に重要なことである。
普通に生きているように見える大人たちにも、実は暗黒の時代があって、多かれ少なかれどんな大人にも惨めで情けなくて恥ずかしい過去がある、ということを子どもたちに知ってほしい。
大人たちには美談ではない失敗を話してほしい。
子どもたちは、大人たちから失敗談を聞き出してほしい。
そのように著者は述べます。
その辺の普通の大人たちが、自分の惨めさや情けなさ、失敗を美談にせず語ることは、子どもたちの命を救うことにもなるというのが著者の主張です。
本著は、「失敗」をテーマに何人かの大人たちと対談をおこない、失敗したり失敗を恐れたりして悩み疲弊してしまった子どもたちに向けて書かれた本です。
対談の中で臨床心理士の東畑開人さんは「もっと積極的に社会のせいにした方が健全だと思う」と言います。
今の日本はほんのわずかな失敗も許されない社会になってしまいました。
コロナのせいで思い描いていたような学生生活が送れなかったり、学生の就職が厳しかったりするのは、どう考えたって本人のせいではないのに、「努力が足りないからだ」「社会のせいにするな」といった社会からの強迫観念のようなものを感じます。
すべてお前が悪いのだという価値観は、場合によっては当人を殺してしまうこともあります。
子どもたちにとって、今の日本はひたすら恐ろしい国なのだと思います。
僕の小規模な失敗
「失敗を語る」ということについて、私がもう一つご紹介したいのは、福満しげゆき『僕の小規模な失敗』という漫画です。
福満しげゆき氏の自伝的作品で、高校入学から妻との結婚までの日々が書かれています。
高校では授業を聞かずに漫画ばかり書いて留年。大学は中退。
鬱屈した日々。将来への不安。女性にはモテず好きな女の子(後の妻)には怖がられて嫌われる。バイトは続かないし、ずっと書き続けている漫画はなかなか掲載されない。
恋愛ゲームにも参加できず、漫画コンクールで相手にされず、学歴コースからも脱落してしまい、まだ何もはじまっていないのに、もうずいぶん失敗してしまったような。
確かに作者は妻と結婚できてますし、漫画は少しずつ採用され、プロの漫画家として細々と活動できるようになっていきます。
でもこの漫画には「でもそんな失敗があったからこそ今の僕があるんです」みたいな美談は一切ありません。
作者の鬱屈としたエネルギーに満ち溢れています。
人を選ぶ漫画ですが、自分のダメさ加減に打ちひしがれている人や、将来の不安に押しつぶされそうになっている人(特に若い男性)にとっては救いになるかもしれない作品です。