我が身を守る法律知識
瀬木 比呂志 著「我が身を守る法律知識」を読みました。
交通事故、痴漢冤罪、相続紛争といった我々一般人が遭遇する恐れのある法的トラブルについて、適切に対処するために必要な法的知識や情報が書かれています。
本書は紛争を生じさせないための危機管理の方法をやビジョンを持つことの重要性を説いており、現在トラブルに遭遇していない人でも予防法学について理解を深めることが可能です。
今回は「相続」の項目をピックアップします。
相続をめぐる争いについて
相続に関して扱った本は多数出版されていますが、それらの多くは「相続税」や「贈与税」に関する解説だったり「遺言書の書き方」などについて書かれており、実際に相続紛争が起こってしまったらどうすればいいかということに書かれた本を見つけるのは意外と難しいです。
相続紛争が起こってしまうというのは最悪のケースであって、できるだけ争いにならないように準備を進めておくのが大事ということなのでしょう。
相続で揉めないために遺書が重要というのは大前提なのですが、遺書があってもトラブルになることがあります。例えば、遺言者が認知症によって意思能力を欠いていたというケースや、一部の相続人が多額の生前贈与を受けていたりするケースです。
遺書がない場合は相続人の間で遺産分割をすることになります。
遺産分割の方法としては①協議、②家事調停、③家事審判があります。
通常は①で簡単に済むことが多く、②に発展してしまった場合でも、争いのある事項が限られるならさほど時間はかからないそうです。
しかし、たとえば財産の種類が多かったり、相続人の範囲や遺産の範囲が不確定だったり、一部の相続人が多額の生前贈与を受けていたりする場合は弁護士に委任する方が良いようです。
遺留分侵害額請求について
遺留分とは「被相続人の財産から法律上取得することの保証されている最低限の取り分」です。
遺留分が認められる相続人は以下の範囲の相続人です。
兄弟姉妹や、兄弟姉妹が先に亡くなっている場合に相続人になる甥や姪には遺留分は認められません。
例えば二人の子供(兄と弟)がいる父親が、全財産を兄に相続させるという遺言を残した場合、弟は遺留分侵害請求で保証される金額を兄に対して行使することができます。
遺留分侵害については、遺書の内容が複雑だったり、生前贈与や相続債務があったりすると計算がかなり難しくなります。
相続紛争を防止することが重要
相続について我々が注意すべき基本的事項は以下の通りです。
- 遺言を作成する
- 争いが起こりそうなら、早急に透明性のある話合いをして、合理的な遺産分割協議を成立させる
- 本格的な争いになってしまったら早めに弁護士に相談する
相続紛争は感情的対立が激しく、主張立証の細かい事件が多い傾向にあるため、地裁の裁判官にとっても気が重いようです。
見も蓋もない話ですが、相続額について他の相続人から不満が出たら、自分の方から数百万単位の和解金を提示し、穏やかに収めるのが一番楽だと言うベテラン弁護士もいるほどです。下手に喧嘩を売った結果、はるかに大きな金額を支払うハメになる場合が非常に多いというわけです。
弁護士を選ぶ際のポイントとして、これは相続に限らず一般的な話ですが、当事者と一緒に闘争心むき出しで戦うような熱くなるタイプではなく、当事者と一定の距離を取って事案を見つめるクールな視点を持った弁護士の方が、紛争がいたずらに長引くことを防ぐことができるそうです。